彼の息遣いが荒くなり、動きが速くなる。
あなたは、彼のその真剣な表情を見て思う。
(…がっかりさせたくない)
その優しい愛情が引き金となり、あなたは今夜も無意識のうちにスイッチを入れる。
息を弾ませ、声を上ずらせ、シーツをきゅっと握りしめる。
そして、練習を重ねた完璧なタイミングで、恍惚の表情を作り、こう囁くの。
「…イった…っ」
その、孤独で完璧な一人芝居。
彼を喜ばせたい、彼のプライドを守ってあげたい。
その、あまりにも健気で優しいあなたの愛情が、結果としてあなた自身の心を、そして、二人の本当の絆を静かに、しかし確実に蝕んでいるという、残酷な事実に、あなたはまだ気づいていない。
そして、もう一つ。
あなたが、絶対に、認めたくないであろう、不都合な真実を、今、ここで、告げなければならない。
あなたの、そのアカデミー賞女優ばりの、完璧な演技、彼にはとっくの昔にバレているわよ。


